雇用契約と業務委託契約は、働き方や契約内容の違いだけでなく、所得税の取り扱いにも大きな違いがあります。これらの契約形態を正しく選ばないと、税務上のリスクや予期せぬ負担が発生することも。例えば、雇用契約では給与所得として源泉徴収が行われますが、業務委託では報酬が雑所得や事業所得として扱われ、確定申告が必要です。本記事では、雇用契約と業務委託契約それぞれの所得税の違いや注意点を具体的に解説します。

事業所得(業務委託)とは

事業所得とは,農業,漁業,製造業,卸売業,小売業,サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいいます。事業所得の金額は,その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とされています。

給与所得(雇用)とは

給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいいます。給与所得の金額は,その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額とされています。

事業所得か給与所得による取扱いの違い

事業所得の場合には確定申告が必要となりますが、給与所得の場合には通常は年末調整で課税関係は完結します。

大工,左官,とび職等の受ける報酬に係る所得区分の違い

事業所得とは,自己の計算において独立して行われる事業から生ずる所得をいい,例えば,請負契約又はこれに準ずる契約に基づく業務の遂行ないし役務の提供の対価は事業所得に該当することとされている。また,雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく役務の提供の対価は,事業所得に該当せず,給与所得に該当することとされています。

したがって,大工,左官,とび職等が,建設,据付け,組立てその他これらに類する作業(以下,「建設作業等」という。)において,業務を遂行し又は役務を提供したことの対価として支払を受けた報酬(以下,「本件報酬」という。)に係る所得区分は,当該報酬が,請負契約若しくはこれに準ずる契約に基づく対価であるのか,又は,雇用契約若しくはこれに準ずる契約に基づく対価であるのかにより判定することとなります。

契約によって所得区分(業務委託又は請負か雇用)が判定できないときの判定基準

大工,左官,とび職等が建設作業等において支払を受けた本件報酬が,請負契約に基づく対価であるのか雇用契約に基づく対価であるのかが明らかでないときは,次の①~⑤の事項を総合勘案して判定することとされている(大工,左官,とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)課個5―5,平成21年12月17日)。

① 他人が代替して業務を遂行すること又は役務を提供することが認められるかどうか。

② 報酬の支払者から作業時間を指定される,報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束(業務の性質上当然に存在する拘束を除く。)を受けるかどうか。

③ 作業の具体的な内容や方法について報酬の支払者から指揮監督(業務の性質上当然に存在する指揮監督を除く。)を受けるかどうか。

④ まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失するなどした場合において,自らの権利として既に遂行した業務又は提供した役務に係る報酬の支払を請求できるかどうか。

⑤ 材料又は用具等(くぎ材等の軽微な材料や電動の手持ち工具程度の用具等を除く。)を報酬の支払者から供与されているかどうか。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/shinkoku/091217/01.htm

具体的事例

具体的事例 1: デザイナーの働き方の違い(雇用か業務委託か)

状況
Aさんは、デザイン業務を行っている個人事業主です。一方で、Bさんも同じデザイン業務を行っていますが、企業と雇用契約を締結しています。

  • Aさんの場合(事業所得)
    • Aさんは自ら仕事を探し、複数のクライアントから報酬(源泉徴収される場合あり)を受け取ります。
    • 報酬額や業務の進め方は自ら調整し、必要経費(材料費、交通費、広告費など)を計上して所得を計算します。
    • 所得税の確定申告は自身で行い、事業所得として扱います。
  • Bさんの場合(給与所得)
    • Bさんは、雇用契約を結んだ企業から給与を受け取ります。
    • 給与所得控除が適用され、源泉徴収によって所得税が控除されます。
    • 必要経費の計上はできず、年末調整で所得税の清算が行われます。

このように、同じ業務内容であっても契約形態によって所得税の取り扱いが異なります。


具体的事例 2: ライターとしての副業

状況
Cさんは、平日は企業で働き給与を得ており、副業でフリーランスのライターとして活動しています。

  • 平日の企業勤務(給与所得)
    • 雇用契約に基づく給与所得です。給与所得控除が適用され、会社が源泉徴収を行います。
  • 副業のライター業務(事業所得または雑所得)
    • クライアントからの依頼で記事を執筆し、報酬を受け取ります。
    • この報酬は、原則として事業所得として計上されますが、副業の規模が小さい場合、雑所得として扱われることもあります。
    • 経費(執筆に使用する書籍代、通信費など)を計上することも可能です。

この場合、副業のライター業務の年間所得が20万円超となった時は確定申告が必要です。